新しい物語は復権欲求に応えるのか1-2

私たちは歴史家でも心理学者でもない。

ゆえに、物語やテクストを歴史的事象や作者の心理状態などに結びつけて考えることは基本的にしない。

前述の市民教育がイギリスでおこり、数年後に日本が真似て大まかにみれば失敗したという事実は補足的な意味合いしか持たない。

その物語が市民の住む“街”を中心にして展開しており、市民教育に類似した方法が垣間見れる以上つながりがないとは言えないというだけの話であるが、重視すべき点は主人公が帰属意識の喪失を既に体験していることである。

 

 

それぞれの登場人物がそれぞれの意思や問題意識を抱えながら集い、囲い、話し合う過程や結果が“街”を通じてその一部へと参画していく流れが強調されるのは、狭く抽象的なコミュニティから広く具体的なコミュニティへさまざまな他者の自己意識を巡りながら帰属意識が移行していく重要性を示している。

それは他者への働きかけやちょっとした駆け引きはあっても政治的な性格を帯びているわけではないため、市民教育でも垣間見る、社会や経済などが求める有用性(国家の国民への過大要求としての国民性)は現れないどころかそれを意図的に避けているようにもみえる。

横の繋がりを越えたさまざまな年代、さまざまなライフスタイルを象徴する人々との巡り合わせやその内容を事細かく記述しているのは、市民教育の切っては切れない経済性、社会性を埋め合わせているからかもしれない。

「生きる力」とは、金を稼いで不安なく生きることだけではなく、自らの人生を人々の自己意識と抱える問題とに投企して時に緩衝したり時に感情を誘発したり時に解決するための力でもあったはずである。

 

 

事実、彼らの問題は私たちの問題であり、彼らの問題と私たちの問題とに無用な壁をつくらず、関わりを持ち、主体的な力を再評価しようという動きもまた新しい物語の特徴だったのではないか。

それは市民教育のなかでも市民自治の側面が強いようにも思われる。

ただこれは子ども(或いは市民)の楽園を意味するわけではない。

大人の問題は子どもの問題であり、逆も然りだということを地域と結びついた自己意識を核にして語られる物語としては、現実での取組が失敗した今になって言えるのかもしれないが、確かに目指されたであろう帰路のひとつに違いなかった。

復権欲求に応えられなかったのは、物語の方ではなく私たち読み手の方だったのだ。

 

 

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