新しい物語は復権欲求に応えるのか2-6
2023/03/24
その物語は、新しい物語史においても書き手や読み手においてもひとつの分水嶺として注目され、そこから続く10年代を予兆させる作品である。
しかし読み手はそれをすんなり受け入れられたわけではなかった。
あるレビューサイトにて数百文字のものから数千文字のものまである簡易な感想文を全て(せいぜい
200本ほどしかない)読んだが、まともな論述をしているものは2本しかない。
この2本は他の全ての感想文と異なった視点と嗜好を持ち出しており、特にその内のひとつは書き手の制作ブログや別作品との関連性(想起させた作品の列挙)、態の比較、そして合理的な結論という批評的ではないが基礎をおさえた丁寧な論述を展開している。
その物語では神と人間の関係性の話が中心となっており、それは誰の目にも明らかなのだが、別の人物との関係においてその関係性の脱構築が図られていることをただ唯一見事に論述している。
しかし私たちは物語における事実を書き記すことしかできないために、物語のごく冒頭部における登場人物の一言…
主人公がその登場人物ににハンカチを貸して欲しいという発言に対する一言…
本来で有れば「はい、どうぞ」もしくは「はい、持っています」で終わる会話であるはずのものを、文法的には反復法、強調表現、二重否定を使用して自立性の高い表現していながらも、最終的に承認を求めている語りに注目する。
一般的には、これは登場人物の特性の丁寧で不必要な提示として流されやすい。
また心情主義者たちはこの表現を「踏み出せない心の弱さとこれから変容していく恐れを解消するために承認を求めている」などと言うだろうが、私たちにとって未分化の主体復権行動にしか見えない。
この物語では不条理の個別化、不条理に対する客観視の限界、問題の簡略化(省略化)による主体の置き去り、自己の認識と他者の認識の埋まらない差などがそれぞれの語りを通じて表現されているが、彼の語りは物語の流れと帰着点を示す重要な予言であり、自己成就のモラトリアムであり、何よりもその自立性の高い表現において自らの主体を軸に置こうとしてきた、という素晴らしい結果(外化)としてのコミュニケーションなのである。
つまり彼の、読み手には理解できない内的葛藤の発露であり、その成果であり、物語世界に連続して生きてきた証であり、そして物語世界を越えたオラリティなのである。
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