実家を片付け始めると、すぐに処分できる物と、なぜか手が止まってしまう物があります。
賞味期限の切れた食品や古い日用品は捨てられても、父が毎朝使っていた湯呑みや、母がいつも羽織っていたカーディガンを手にすると、「これは捨てていいのだろうか」と迷ってしまう。もう使う人はいない。それでも、ごみ袋に入れるのはためらわれます。
「亡くなった人の物は処分した方がいい」と言われることがありますが、本当に全部捨てる必要があるのでしょうか。四十九日や一周忌を過ぎたら片付けるべきなのか、いつまでも残しておくのはよくないのかと悩む方もいるでしょう。
結論からいえば、故人の物をすべて処分しなければならないという決まりはありません。ただ、実家や故人の部屋をそのままにするのではなく、一度は物と向き合い、何を残し、何を手放すのかを考えてみることをおすすめします。
遺品の「整理」は、すべてを「処分」することではありません。残す物があっても、今はまだ決められない物があってもいいのです。
亡くなった人の物を全部処分する必要はない

親が亡くなったあと、「遺品はいつまで置いておいていいのだろう」と気にされる方がいます。
四十九日を過ぎたら片付けるものなのか、一周忌までは残した方がいいのか。しかし、故人が使っていた衣類や食器、家具、写真などを、一定の時期までに処分しなければならないという決まりはありません。悲しみがまだ強い時期に、無理に片付ける必要もないでしょう。
ただ、「捨てられないから全部そのままにしておく」ことと、「残したい物を選んで残す」ことは少し違います。
食器棚いっぱいの食器をすべて残したいのか。それとも、母が毎朝使っていたマグカップだけは残したいのか。
一つひとつ見ていくと、「故人の物だから捨てられない」と思っていた中にも、手元に置きたい物と、役目を終えたと思える物が見えてきます。
「何を捨てるか」より「何を残したいか」
遺品整理というと、不用品を処分する作業を思い浮かべるかもしれません。
けれど、最初から「これは捨てる」「これはいらない」と考えてしまうと、故人の物を前にして手が止まってしまうかもしれません。
順番を逆にしてみましょう。
自分が残しておきたい物、兄弟や親族に確認したい物、故人との思い出が強く残っている物を先に取り分ける。そして残った物について、そのあとで手放せるかを考えます。
書類や貴重品が紛れていないか
処分を始める前に、遺言書や通帳、印鑑、保険証券、不動産関係の書類、現金などがないか確認してください。古い封筒や紙袋、引き出しの奥に残されていることもあります。
必要な物を取り分けてから、手放す物を決める。それでも最後まで迷うのは、意外にも故人が毎日使っていた何でもない物だったりします。
父の湯呑みだけ、どうしても捨てられなかった

遺品整理をしていると、片付けが順調に進んでいたのに、たった一つの物を前に手が止まってしまうことがあります。
あるお客様の場合、それは食器棚に残った古い湯呑みでした。
皿やグラスは次々と箱に入れられたのに、その湯呑みだけはなかなか手放せない。
「父が毎朝、これでお茶を飲んでいたんです」
高価な物ではありません。欠けていて、もう誰かが使う予定もない。それでも、ごみとして処分することには抵抗があります。
遺品には、そんなふうに、値段や実用性だけでは決められない物があるのです。
捨てることが「忘れること」に感じられる
湯呑みを見れば、新聞を読みながらお茶を飲んでいた父親の姿を思い出す。古いカーディガンを手にすれば、それを着て台所に立っていた母親の姿が浮かぶ。
捨てられないのは、その物が必要だからとは限りません。
物と一緒に、故人と過ごした時間までなくなってしまうように感じるからです。
そのため、「もう使わないから」「古いから」という理由だけで処分しようとしても、気持ちが追いつかないことがあります。 私たちエピローグシオンでも、遺品整理をしているご家族から「こんな物まで残しておくのはおかしいでしょうか」と聞かれることがあります。そのたびに思うのは、それはその人にしか分からない、ということです。高価な時計より、毎日使っていた湯呑みの方が、その人らしさを強く思い出させることもあります。
今日決めなくてもいい
「残す」「捨てる」を今すぐ決められないなら、迷う物だけをいったん保留にしてもかまいません。
数か月後に見れば、「やはり残したい」と思うかもしれませんし、「写真に残せば手放せる」と気持ちが変わることもあります。
遺品整理は、その日のうちにすべての答えを出す作業ではありません。父親の湯呑みを一つ残しても、整理に失敗したことにはならないのです。
「残すか、捨てるか」だけで考えない

迷う物をいったん保留にすると、遺品整理は進めやすくなりますが、
だからといって何でも「保留」にしていては、結局何も片付きません。
そこで私たちがおすすめしたいのは、残し方にも自分なりの基準を作ることです。
迷った物は「一箱だけ」残してみる
決められない物のために、段ボール箱や衣装ケースを一つだけ用意します。その中に入る分は、今すぐ処分しなくていいことにするのです。 時間を置いて開ければ、手放せる物と「やはり残したい」と思う物が見えてきます。最後まで残った物こそ、自分にとって本当に残しておきたい遺品なのかもしれません。
形を変えて残す
思い出を残すために、物そのものを持ち続ける必要がない場合もあります。
父がいつも座っていた椅子を自宅へ持って帰るのは難しくても、写真なら残せます。大量のアルバムは、必要な写真だけを選んでデータにする方法もあります。衣類なら、特に思い出のある一着だけを残すこともできるでしょう。
「手放したら思い出までなくなってしまう」と感じたときは、何を残したいのかを考えてみてください。
物そのものではなく、その物から思い出す故人の姿を残したいのなら、別の形に変えることで気持ちが決まる場合があります。
「捨てる」以外の出口を作る
まだ使える物をごみに出すことに抵抗があるなら、別の人へ渡す方法もあります。
兄弟や親族に欲しい人がいないか尋ねる。価値のある物なら買取を依頼する。状態によっては寄付やリユースを検討する。人形や仏具など、そのまま処分することに抵抗がある物なら、供養やお焚き上げという選択肢もあります。
すべての遺品に新しい行き先を見つける必要はありませんが、「捨てるしかない」と考えていた物に別の出口が見つかると、手放すことへの抵抗が小さくなることがあります。
残す。保留する。形を変える。誰かに譲る。そして、役目を終えた物は処分する。遺品整理には、そんなふうにいくつもの選択肢があっていいのです。
処分する前に残してはいけない物を確認する

ここまでは、思い出のある物をどう手放すかという話でしたが、遺品には相続やその後の手続きに関わるため、すぐに捨ててはいけない物もあります。実家を急いで空にする場合でも、処分する前に取り分けておきましょう。
通帳や印鑑だけでなく、紙類にも一度目を通す
通帳、印鑑、現金、権利証などは、多くの方が捨てずに残すでしょう。
見落としやすいのは、それ以外の書類です。
保険会社からの通知、年金関係の書類、税金の通知書、借入金の明細、証券会社からの郵便物などから、家族が把握していなかった財産や契約が分かることがあります。
封筒に入ったままの書類や、引き出しの奥にまとめられた紙類を、そのまま古紙として出してしまうのは避けたいところです。
私たちが遺品整理をするときも、書類や貴重品らしき物が見つかれば、ご家族に確認していただくようにしています。
一見すると不要に見える紙一枚が、あとになって必要になることもあるからです。
写真や手紙は、一度捨てると取り戻せない
もう一つ、急いで判断しないでほしいのが写真や手紙です。
大量のアルバムをすべて残す必要はありません。しかし、処分したあとになって兄弟から「子どもの頃の写真が欲しかった」「父からもらった手紙が入っていたはず」と言われても、取り戻すことはできません。
自分には必要なくても、別の家族にとっては残しておきたい物かもしれないのです。
判断に迷ったら、すぐに捨てる箱へ入れず、家族が確認する物として分けておく。それだけでも後悔を防げます。
相続放棄を考えているなら、片付けを急がない
特に慎重になっていただきたいのが、相続放棄を検討している場合です。
「どうせ家を片付けなければならないから」と故人の財産を自己判断で処分すると、その後の相続放棄に影響する可能性があります。
借金があるかもしれない、財産の全体像がまだ分からない、相続するかどうか決めていない。そんな段階なら、先に弁護士や司法書士などの専門家へ確認したほうがよいでしょう。
遺品整理では、「早く捨てること」が正解とは限りません。
迷ったときほど、捨てる前に一度確認する。それが、後悔しない遺品整理につながります。
実家をそのまま残しておくのも負担になる

亡くなった人の物を前にすると、「まだ捨てる必要はないのでは?」と思うこともあるでしょう。家そのものも、持ち家ですぐに売却する予定もなければ、なおさらです。
「気持ちが落ち着くまで、このままにしておこう」と考えても問題はありません。ここまでお伝えしてきたように、迷っている物を無理に処分する必要もありません。
ただ、物を残すことと、家そのものを何年もそのままにしておくことは、少し分けて考えたほうがよいでしょう。
「今は困っていない」が数年続くことも
実家が遠かったり、仕事や子育てが忙しかったりすると、最初は月に一度だった訪問が数か月に一度になり、そのまま何年も経つことがあります。
人が住まなくなった家にも、換気や通水、庭の手入れ、郵便物の確認などが必要です。雑草や建物の傷みへの対応、固定資産税の負担も続きます。
家財を残すという選択には、家を維持する負担もついてくるのです。
「いつか片付けよう」の間にも、物は古くなっていく
数年後に整理すればいいと思っていても、家の中が当時のまま保存されるとは限りません。衣類や布団には湿気が入り、紙類は傷みます。家具や家電も、時間がたてば再利用や売却が難しくなることがあります。
さらに困るのは、年月がたつほど「これは何だったのか」を知っている人が減っていくことです。写真に写っている人が誰なのか。古い書類をなぜ保管していたのか。この箱を父親がなぜ大事にしていたのか。亡くなって間もない時期なら家族が覚えていても、十年後には分からなくなっているかもしれません。
急いで全部を処分する必要はありませんが、判断できる人がいるうちに一度中身を確認しておく意味はあります。
家を空にすることと、思い出をなくすことは別です
実家を片付けることに、「親が暮らした家をなくすようで寂しい」と感じる方もいます。
けれど、すべての物を残さなくても、思い出は残せます。忘れたくない物を一つ残す、写真を選ぶ、片付ける前の部屋を撮影するという方法もあります。
何を残せば自分は納得できるのか。そこが決まれば、実家の片付けも進めやすくなります。
亡くなった人の物は、「何を残したいか」から考える
亡くなった人の物は、早く処分したほうがよいわけではありません。
手に取るだけで故人を思い出す物なら、今は残しておいてもいいでしょう。決められない物はいったん保留にする、写真に残してから手放す、家族に譲るという方法もあります。
でも、すべてを残そうとすると、今度は実家そのものを維持し続けることになります。
ですから、「何を捨てるか」ではなく、「自分は何を残したいのか」から考えてみてください。
残したい物が決まると、それ以外の物については不思議と判断しやすくなることがあります。
私たちエピローグシオンが遺品整理でお手伝いする際も、「これは残したい」「これはまだ決められない」というご家族の気持ちを確認しながら、整理を進めていきます。
実家を片付けたいけれど、何から手をつければよいのか分からない。自分たちだけでは、残す物と手放す物を決めきれない。そんなときは、エピローグシオンへご相談ください。
遺品整理は、亡くなった人の物をなくす作業ではありません。これからも残しておきたいものを、自分たちで選び直す作業でもあるのです。






